研究概要 |
霊長類(アフリカミドリザル)大脳皮質領野間の発現に顕著な差のある遺伝子をRLCS法により探索したものの一つに、視覚野で少なく前頭葉(46野)で高いものがあり、腫瘍随伴症候群の患者血清に対する抗原の一つとして報告されていたPNMA (paraneoplastic antigen-like)ファミリーに属するPNMA5遺伝子であることが判った。そこで、霊長類の大脳皮質における発現をin situ hybridization法で詳細に調べ、前頭連合野や側頭連合野等の連合性線維の投射を受ける領域の興奮性細胞で強い発現が見られ,一次感覚野では、その発現が弱いことを示した。又,特異的抗体を作成し、その発現が核に見られることを示した。大脳皮質以外では、扁桃体と海馬で発現がみられるが、他の組織では、精巣を除いてその発現はみられなかった。次に、新世界ザルであるマーモセットでの発現を調べたところ、大脳皮質連合野で特異的に強かった。しかし、マウスでは、精巣のごく弱い発現以外全く観察されなかった。更に、他のPNMAファミリー遺伝子(PNMA1,2,3,4)の発現を調べ、マカカ属やマーモセットでは、大脳皮質の領野間での目立った差はなく、かつ興奮性、抑制性にいずれにも発現していることを示した。マウス脳では、PNMA2,3,4の発現が観察されたが、PNMA1の発現は観察されなかった。以上の結果は、PNMA遺伝子ファミリーの中でも、PNMA5だけが同研究室で先に報告したRBPと良く似た、霊長類の連合野と海馬、扁桃体に特異的な発現をすることを示している。RBPは、他の組織や種でも発現がみられるのに対して、PNMA5遺伝子は、霊長類連合野で特異的に発現するようにより特異的に進化した遺伝子と考えられ、今後霊長類連合野の形や機能解析の研究の発展に寄与することが期待される。
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