研究概要 |
本研究では体液Naレベルの検出と制御の脳内メカニズムを明らかにすることを目標としている。本年度の研究成果は以下の通りである。 (1)NaレベルセンサーNa_xと結合する分子 Na_xの細胞内領域と相互作用する分子を酵母two-hybrid法により探索し、Na^+,K^+-ATPaseのα1サブユニットを同定した。α1の第3細胞内ループがNa_xのC末領域と結合すること、免疫共沈実験及び細胞内局在の解析から、両者は脳室周囲器官のグリア細胞の膜内において共局在していることが判明した。 (2)機能的Na_x発現系の開発 C6グリオーマ細胞にTet-Off発現系を用いてNa_xの機能的発現に成功した。Na_x発現C6細胞は、細胞外Na濃度の上昇に応答して、nativeなNa_x陽性細胞と同等のNaイオン流入による細胞内Naレベルの上昇を示した。この系を用いて、Na_xのNa^+,K^+-ATPaseへの結合がNa^+,K^+-ATPaseの活性化に必須の役割を果たしていることが判明した。 (3)Na_xとNa^+,K^+-ATPase間の結合の生理的意味 Na^+,K^+-ATPaseのみを発現するC6細胞では、Naイオノフォアであるmonensinによって細胞内Naレベルを高めても、Na^+,K^+-ATPaseは活性化せず、その結果としてグルコース取り込み量も上昇しない。Na^+,K^+-ATPaseはNa_xと相互作用している状態で初めて細胞内Naイオン流入に応答して活性化するものと考えられる。野生型マウスから単離した脳室周囲器官では、細胞外のNa濃度を生理的な145mMから170mMに上げると、Na_x陽性のグリア細胞においてグルコース取り込みが上昇するのに対し、Na_x遺伝子欠損マウス由来の組織や細胞ではこの応答が見られないことが判明した。また、Na_x陽性のグリア細胞のグルコース代謝が活性化した状態では、細胞からの乳酸の産生、放出の増加が起きていることが確認された。
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