(1) 高Na血症の発症とNa_x 本態性高ナトリウム血症は、血中Naレベルが恒常的に異常に高くなる疾患であり、多くの場合、腎臓機能障害や、視床下部領域の腫瘍等により抗利尿ホルモンであるバソプレッシン(VP)の産生・分泌能が低下することから起こる。平成20年度に引き続き、Na_xに対する自己免疫を発生した高Na血症の症例について検討した。患者血清の免疫グロブリン分画(Ig)をマウスに静注投与すると、1週間後、食餌に伴わない基礎飲水量が有意に減少すると共に、脱水状態におけるVP分泌能が低下し尿量抑制が不十分となる。また脱水条件下でNaを含有する通常の餌とNaを含まない餌を自由に選択させたところ、対照群マウスが低Na餌を選択的に摂取したのに対し、Naを含有する餌の摂取を抑制しない。その結果患者と同様に血中Naレベルが上昇した。患者IgからNa_xに結合するIgを吸着カラムで除去した場合には、これらの症状を発生しなかった。また、投与3日後において、脳弓下器官、終板脈管器官、及び下垂体後葉に特異的に、補体成分C3の集積とマクロファージ及びミクログリアの侵入が観察された。更に、これらの部位において細胞死が有意に上昇していることが判明した。以上、平成20年度並びに平成21年度の結果から、本症例は感覚性脳室周囲器官が、Na xに対する自己免疫反応により不可逆的に侵害された為に発症した腫瘍随伴性神経疾患と診断された。 (2) Na_x-KOマウスにおけるVP調節 これまで体液のNaレベルと浸透圧のどちらの情報がVPの調節を担っているかについては議論があった。Naレベルセンサーの同定によって、Na_x-KOマウスを用いて、この問題に決着をつけることが可能となった。脱水状態、並びに高張Na溶液を腹腔内に投与した条件下で、VPの産生・放出量、尿量、尿組成を解析した結果、Na_xによるNaレベル上昇の情報はVPの調節には使われていないことが判明した。
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