研究概要 |
われわれはγセクレターゼによるAPP切断に関してトリペプチド仮説を提唱した。本年度は、LC?MS/MSを用いてトリペプチドを反応液中に直接的に検出、定量する方法を確立し、APPの膜貫通ドメインから遊離されると想定される5種類のトリペプチド(IAT,VIV,ITL,TVI,VIT)の存在を証明しようとした。そこで、γセクレターゼのCHAPSO可溶化・再構成Aβ産生系を用いて、検討をおこなうことにした。CHAPSO可溶化・再構成Aβ産生系では、基質は精製したβCTFのみであり、酵素源としては、CHO細胞に存在するγセクレターゼをCHAPSO可溶化後に、ニカストリンに対する抗体で免疫沈降したものを使用する。したがって、ほとんど夾雑物のない、酵素と基質のみが存在する系を構築することが可能である。この系でも時間依存的にAICD50-99、49-99と、Aβ1-40、42、43、45、48、49が産生されるので、γセクレターゼの基本的な性質は保存されていると考えた(Kakuda N,et al. J Biol Chem 281:14776-86,2006)。そこで、これらのサンプルをLC-MS/MSで解析したところ、インキュベーション前のサンプルでは、IVI以外のトリペプチドはほとんど検出されなかった。37℃で1時間インキュベーションしたサンプルでは、予想した5種類のトリペプチドはすべて著しく増加するのに対して、それ以外の7種類のトリペプチドはほとんど増加しなかった。また、この系にγセクレターゼ阻害剤であるL685,458またはDAPTを添加して1時間インキュベーションしたサンプルについては、これら5種類のトリペプチド産生はほぼ完全に抑制された。これらの結果から、γセクレターゼによってβCTFから産生されるトリペプチドは、IAT、VIV、ITL、TVI、VITの5種類であることが明らかとなった。
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