研究課題
多くの神経変性疾患において、神経細胞における異常タンパク質の凝集・蓄積とそれに伴う神経細胞死が共通する病態として知られており、これら異常タンパク質の主要な分解経路としてユビキチンプロテアソームシステム(UPS)がある。さらに、神経変性疾患の大きな特徴の一つとして加齢に伴って発症リスクが上昇することが挙げられるが、神経変性疾患が晩発性に発症する理由は未だ明らかではない。我々は、寿命が約60日と短く遺伝学的な研究に適したショウジョウバエを用いて、生体内でのプロテアソーム活性と神経変性の発症との関与に着目した。ショウジョウバエ頭部におけるプロテアソーム活性を測定したところ、加齢に伴うプロテアソーム活性の減少と、ユビキチン化タンパク質の蓄積が観察されたことから、加齢によるプロテアソーム活性の低下が神経変性疾患の晩発性発症における危険因子の一つであると考えた。一方、Gal4転写因子依存的に遺伝子を過剰発現することで、細胞死実行経路に関わる遺伝子を同定するスクリーニング(Gene Search)を行って得られた系統の一つでは、Gal4依存的にプロテアソーム活性の上昇が認められ、伸長ポリグルタミン発現による複眼の変性が抑制された。このように、神経変性とプロテアソーム活性の変動とは密接な関係があることが示唆された。そこで、加齢に伴うプロテアソーム活性の変化を制御する因子を明らかにするために、ショウジョウバエを用いた機能欠失型の遺伝学的スクリーニングを行った。現在までに数系統のプロテアソーム活性の加齢に伴う低下がおきない系統を得ており、このうち2系統がポリグルタミンによる進行性の神経変性様表現型を抑制した。これは、加齢に伴う生体内のプロテアソーム活性の低下が遺伝子レベルで制御されていること、また老化に伴うプロテアソーム活性の変化が神経変性疾患の発症を制御する可能性を示唆するものである。今後、これらの系統に関して原因遺伝子を同定し、加齢に伴うプロテアソーム活性の変化がどのように制御されているのか、さらには晩発性発症との関与について明らかにしていきたい。
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