本研究の目的は、アルツハイマー病との関連性が示唆されている脳特異的コレステロール代謝産物24-ハイドロキシコレステロール(24-HC;オキシステロールの一種)の作用機構に関して、申請者が独自に見出した24-HC結合蛋白質をターゲットとして、その生理的あるいは病理的機能を明らかにすることである。本年度は、24-HC結合蛋白質ならびに24-HC結合蛋白質と高い相同性を有するOSBPに関して、発現抑制系(動物細胞)ならびに欠損変異体(線虫)を確立し、以下の点を明らかにした。 ・オキシステロール結合蛋白質がある特定のSNARE蛋白質(v-SNARE)の機能に必須であり、ゴルジ体膜上において膜融合に関与すること、また、ゴルジ体膜上に存在する相互作用分子を同定し、膜融合の制御機構を明らかにした。さらに、オキシステロールがこの機構において抑制的に作用することを見出した。 ・線虫をモデルとしたゲノムワイドな発現抑制(feeding RNAi)を行い、オキシステロール結合蛋白質の欠損変異体の表現型を増強させるエンハンサー遺伝子の同定を試みた。現在までに全ゲノムの約1/4の遺伝子についてスクリーニングを終了し、エンハンサー遺伝子を複数同定した。さらに、同定したエンハンサー遺伝子の関連分子に焦点を絞り、スクリーニングを行った結果、ある現象に関わる一連の分子群がオキシステロール結合蛋白質と遺伝学的相互作用を示すことが分かった。 ・オキシステロール結合蛋白質の特異的抗体を作製し、組織染色を行った。この結果、オキシステロール結合蛋白質は、アルツハイマー患者の脳において大型錐体神経細胞や反応性アストロサイトに特に強く発現していることが明らかになった。
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