わが国における劣性遺伝性脊髄小脳変性症SCDの原因遺伝子を系統的に検索した結果、眼球運動失行、低アルブミン血症を伴う早発型運動失調症(EAOH)がその半数以上を占める最も重要な病型であることを明らかにした。原因遺伝子として同定されたアプラタキシン(APTX)には、1本鎖DNA損傷修復(SSBR)の過程で足場蛋白として働くXRCC1との相互作用が確認されたことから、APTXもSSBRに重要な役割を果たしていると想定された。そこで、組換えAPTX蛋白を精製し、DNA末端における各種の修飾基に対する加水分解活性を測定することにより、中枢神経系におけるAPTXの生理機能を明らかにすることを目的とした。 1本鎖DNA損傷(SSB)には塩基の損傷と糖の損傷があり、DNA3'末端の不飽和アルデヒドは塩基損傷で付加される。AP endonuclease 1はこれを加水分解できるのに対して、APTXはできなかった。一方、3'末端のリン酸基やphosphoglycolate(PG)は糖の損傷の際に付加される。5'-polynucleotide kinase 3'-phosphatase(PNKP)はリン酸基を加水分解できたが、PGはできなかったのに対して、APTXはリン酸基のみならず、PGによる修飾も加水分解により修復できた。したがって、APTXはSSBRの中でも糖鎖の損傷に際して、DNA3'末端の修飾を加水分解することにより、SSBRを正常に進行させる役割を担っているものと考えられた。 引き続き、EAOH脳およびAPTXをノックアウトしたマウス脳でSSBの蓄積を証明し、さらにSSBの蓄積が神経変性を引き起こす分子メカニズムを解明することにより、病態に即したEAOHの治療法開発を開始した。
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