研究概要 |
パーキン蛋白欠損による黒質の変性機序解明を目的に次の研究を行った.SHSY5Y細胞にアンチセンスパーキンの全長をtransfectして,その細胞がアポトーシスで死亡することを確認した。その機序を解明するため,ドーパ,ドパミンのキノン体を定量したところ,対照細胞に比し有意に増加していた.このことは,パーキン欠損細胞においても,酸化的障害が細胞変性に関与することを示し,パーキンが抗酸化作用を持つことを間接的に証明した.次に黒質の選択的細胞死の機序を解明するため,パーキン結合蛋白の解析を行った.その過程で14-3-3η蛋白がパーキンのリンカー部分に結合することを見出し,その結合によりパーキンのリガーゼ活性が不活化されることを見出した.更にその14-3-3η蛋白にα-シヌクレインが結合すると,この結合体がパーキンから離れ,パーキンはリガーゼ活性を回復することを見出した.α-シヌクレインは酸化的ストレスなどで誘導されるので,酸化的ストレスの強い黒質では,パーキンのリガーゼが必須である一方,非ドパミン性の神経細胞では,パーキンをあまり必要とせず,14-3-3η蛋白と結合して不活化された状態でいるという図式が考えられる.これがパーキン欠損による黒質の選択的障害の分子機構である可能性が高い.次に優性遺伝の家系についてα-シヌクレイン変異の有無を検討した.海外では3つの点変異が報告されているが.今回α-シヌクレイン遺伝子の全長にわたり,duplicationを起こし,優性遺伝のパーキンソン病を発症した2家系を見出した.本邦初のα-シヌクレイン遺伝子変異である.更に興味あることは,その1家系で,α-シヌクレイン変異を持ち,発症年齢に達しながらまだパーキンソン病を発症していない症例が数例みつかった.今後何故発症を免れたかの分子機構が判明すれば,細胞保護をめざした治療の研究にも示唆を与えると考えられる.
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