研究概要 |
今回、我々はフィーダー細胞を用いずに、ES細胞の細胞塊を無血清下に浮遊培養ですることで、効率よく神経細胞に分化させる系をまず樹立した(SFEB法)。さらにWnt,Nodalという2つの内在性の分泌シグナル因子の活性を一時的に阻害することで、ほぼ選択的に神経分化誘導できる(9割以上)ことが判明した。 マーカー解析の結果、SFEB法でES細胞から産生された神経細胞はこれまで産生が困難であった大脳の前駆細胞であることが明らかになり、さらにShhを作用させることにより、この大脳前駆細胞から大脳基底核などの細胞を試験管内で分化誘導することに成功した。 この研究により、従来不可能であった試験管内での大脳神経細胞の大量産生が可能なり、大脳の変性疾患(ハンチントン病やアルツハイマー病など)の発症機序の解明や大脳疾患の治療法開発に大きく貢献することが期待される。さらにSFEB法に血清処理とアクチビン処理を追加することで、16%の高い効率で神経網膜前駆細胞(Rx陽性細胞)に分化させる系(SFEB/DLFA法)をまず樹立した。こうして得られたES細胞由来の神経網膜前駆細胞は、胎児の網膜発生時の微小環境を試験管のなかで再現する培養を行うと、高効率で視細胞に分化することが明らかになった。この研究により、従来不可能であった神経網膜細胞、特に視細胞を産生することが世界ではじめて可能となり、網膜変性疾患の発症機序の解明、および新薬や治療法開発に大きく貢献することが期待される。
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