研究課題
アルツハイマー病のワクチン療法が注目されている。合成ペプチドとアジュバントよりなる筋註するタイプのワクチンAN-1792は副作用としての髄膜脳炎が起こった為、その治験は中止された。我々はウイルスベクターを用いて安全と思われる経口、経鼻ワクチンを開発した。しかし、さらに安全でかつ有効な免疫療法を模索する必要がある。そこで、我々は次の3つのアプローチを行った。1.内在性Aβ結合蛋白に抗体のFc部分を結合させた遺伝子を構築し、人工オプソニンを作製した。しかし残念ながら作られた蛋白質が不溶性であり、その効果をin vitro, in vivoで確かめられなかった。2.受動免疫による免疫療法を開発する為にマウスを凝集Aβ1-42で免疫し、所属リンパ節細胞からB細胞を分離し形質細胞腫と融合した。この融合細胞をスクリーニングし、96個の中から6個の陽性クローンを得た。そのうちの1個がIgG2bであり、他はIgMであった。このIgG2b抗体は老人斑の周辺に主に結合した。現在、更にその特性を検討中である。この抗体のヒト型化を行ったが、まだ良い抗体が得られていない。3.老人斑除去に関わる貪食細胞は中枢のミクログリアではなく、骨髄由来のマクロファージがミクログリアの形態をとったものであるとのSimardら(2006)の報告を受け、末梢のマクロファージを活性化することが知られている十全大補湯の作用を調べた。12カ月齢のtg2576マウスに十全大補湯を投与したマウスでは中枢神経系にCD11b陽性ミクログリアの著明な増殖とAβ貪食像が見られ、老人斑アミロイドの有意な減少が観察された。また、脳のギ酸画分中Aβも50%の減少が見られた。以上より、漢方薬十全大補湯はアルツハイマー病の免疫療法の補助剤になり得ると考えられる。
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