研究概要 |
アルツハイマー病(AD)のワクチン療法の可能性が示され、合成Aβ1-42とアジュバントQS21からなる筋注ワクチン(AN-1792)の治験が欧米で行われた。この治験においてtissue amyloid plaque immunoreactive antibody(TAPIR抗体)が上昇した患者では、ワクチン接種後の進行が緩徐になることが示された。TAPIR抗体とは患者血清をAD脳の凍結切片にかけ二次抗体で発色させたとき老人斑が染色される抗体である。そこでそのようなモノクローナル抗体を作製することを本研究の目的として研究を行ってきた。これまでの研究で3.4A10と命名した興味ある抗体が得られた。3.4A10は凝集Aβ1-42に高い親和性を有しAβ1-40,Aβ1-28に対する反応は弱く、Aβ1-42モノマーに対する親和性も低く、APPは認識しなかった。ビアコアを用いて抗原認識部位をしらべると、N末部分にあることが分かった。3.4A10はAβの凝集を抑制し、凝集したAβの融解作用も有した。3.4A10で免疫組織染色すると老人斑の周辺部に主に結合し、芯の部分への結合は弱かった。3.4A10(10mg/kg)を18ヵ月齢のtg2576マウスに週1回腹腔注射し8週後に脳を調べると老人斑の有意な減少、オリゴマーの減少と認知機能の改善が見られ、脳出血の有意な増加は観察されなかった。そこでV領域の塩基配列を決定し特許出願した。本年度はこの抗体のV領域のCDR1-3のみをマウス由来とした部分ヒト型化を行った。しかしビアコアを用いて解析したところAβに対する反応性が失われていた。そこでFc領域のみをヒト由来とする抗体を作製して解析したが、キメラ抗体でもAβに対する反応性が失われた。恐らくFc部分が抗原結合性に関与していると思われ、Fc部分の塩基配列を決定する必要がある。
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