研究概要 |
アルツハイマー病(AD)発症の物質的基盤はAβ重合体であり、その形成機構と毒性発現機構の解明はAD研究の重要課題である。本研究課題は、Aβ重合開始に働くことが確認された内因性seedであるGM1ガングリオシド結合型Aβ(GAβ)を中心に、AD病態解明ならびに治療薬開発を目指すものである。本年度は以下の方法により、研究を実施した。(1)各種ガングリオシドを含有させたリポソームに可溶性Aβ(野生型ならびに遺伝的変異型)を反応させ、その結果誘導されるAβ重合を生化学的ならびに形態学的に評価した。これまで未解析であったIowa型Aβは、他のアミロイドアンギオパチー誘導の変異型Aβ同様、血管平滑筋が発現するGM3の存在下で顕著なアミロイド線維形成を示すことを確認した。(2)培養神経細胞に可溶性Aβを作用させ、神経細胞表面上で進むGM1依存性Aβ重合の詳細を免疫細胞化学的ならびに細胞生物学的に解析した。培養系においてAβは軸索末端においてGM1依存性に、Gβ形成を介して重合することが確認された。また、クロロキン投与によるエンドサイトーシス障害は軸索末端におけるAβ重合を促進することが確認された。(3)GM1依存性に形成される可溶性Aβ重合体の特性を形態学的ならびに細胞生物学的に解析した。GM1依存性に形成される可溶性Aβ重合体には強い神経細胞毒性があり(toxic soluble Aβ assembly; TAβと命名)、アミロイド形成とは別経路で形成され、NGF受容体を介して神経細胞死を誘導することが確認された。脳領域特異的な遺伝的変異型Aβの重合・蓄積に局所のガングリオシド(GM1,GM3,GD3)が深く関わる可能性について、Iowa型Aβの研究結果はさらなる支持を与えた。一方、弧発性ADにおいて、GM1が脳実質のAβ重合・蓄積をどのように促進するかは不明であったが、本年度の研究により、軸索末端(前シナプス膜)に発現されるGM1が特異なドメインを形成しAβ重合を誘導している可能性が示唆された。また、弧発性AD脳神経細胞で報告されているエンドサイトーシス障害は同部位におけるGM1集積を促進する可能性が示唆された。Aβ重合を誘導する軸索末端GM1ドメインの実体を詳細に解析する必要があると考えられる。さらに、AD脳に認められる老人斑非依存性神経細胞死はNGF受容体を有する神経細胞に好発することから、TAβの病的意義を追求し、AD脳で検出された場合には、GAβに加えTAβをも標的とした小分子化合物のスクリーニングを実施する必要があると考えられる。また、平成19年度に繰越した交付金により、遺伝子改変アルツハイマー病モデルマウス(GM1欠損/APP変異遺伝子導入マウス)の脳内アミロイド蓄積に関する生化学的評価系(高感度ウエスタンブロット法等)の構築ならびに解析を実施した。
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