アルツハイマー病(AD)発症の物質的基盤はAβ重合体であり、その形成機構と毒性発現機構の解明はAD研究の重要課題である。本研究課題は、Aβ重合開始に働くことが確認された内因性seedであるGM1ガングリオシド結合型Aβ (GAβ)に焦点をあて、AD病態解明ならびに治療薬開発を目指すものである。平成20年度の研究概要は以下の通りである。(1)神経細胞表面からのGM1のエンドサイトーシス経路のうち、early endosomeからlate endosomeへ膜輸送を制御するRab7をノックダウンし、そのGM1集積ならびにGAβ誘導性Aβ重合促進への影響を検討したところ、顕著なearly endosomeの腫大を確認するとともに、細胞表面におけるGM1集積ならびにGAβ誘導性のAβ重合促進を認めた。(2) GM1欠損マウスのAPP-Tgマウスを解析した結果、血管壁に蓄積するAβ量は著しく増加し、脳実質へ浸潤する様相(dyshoric-form amyloid angiopathy)を呈した。(3) 抗seed作用を有する低分子化合物のスクリーニング系を細胞系、非細胞系の両面で検討を開始した。脳内におけるGAβ誘導性のAβ重合の神経細胞生物学的基盤については不明のままであったが、本研究によりエンドサイトーシスの障害がGM1集積ドメインの形成を介して重要な役割を果たしている可能性が高くなった。今後は神経細胞のエンドサイトーシスに、神経細胞の老化やアポリポ蛋白E4発現等のADの発症危険因子が影響を与える可能性について検討を進める必要がある。一方、seed仮説の検証を目的に実施したGM1欠損のAPP-Tgマウスの解析から得られた結果は、脳内におけるAβ蓄積におけるガングリオシドの役割を強く示唆すると考えられる。以上の結果は、GAβの「種」作用を特異的に抑制する薬剤の開発に論理的基盤を与えるものと考えられる。
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