アルツハイマー病(AD)発症の物質的基盤はAss重合体であり、その形成機構と毒性発現機構の解明はAD研究の重要課題である。本研究課題は、AB重合開始に働くことが確認された内因性seedであるGM1ガングリオシド結合型Ass(Gass)に焦点をあて、AD病態解明ならびに治療薬開発を目指すものである。平成21年度の研究概要は以下の通りである。(1)SM合成酵素阻害剤を用いて細胞内SMレベルを減少させると、Rab7-siRNA処理によるエンドサイトーシス障害によって誘導されるGass依存性Ass重合が顕著に抑制されることが確認された。(2)(a)Ass中央部分の疎水性アミノ酸集積領域(central hydrophobic cluster : CHC)内のアミノ酸置換がAss重合に重大な影響を与えること、(b)GAssはCHCを含む領域で特異なhelix構造を示すこと、さらに、(c)GM1を含むガングリオシドのAssへの結合はCHCを含む領域で生じている可能性が高いことから、AssのCHC領域のhelix構造がGM1との相互作用により誘導されうるかをMD解析で検討した。その結果、確かに、同部位に二箇所のhelix構造を有するポケットが生じることが確認された。また、GAss構造を特異的に認識する低分子化合物が、Ass重合阻止能を有することが確認された。以上の結果から以下が考察される。(1) これまでの研究からGAssは特異な脂質組成を有する膜ドメイン上で選択的に形成されることが明らかになっている。今回の研究から、同膜ドメインの形成には既に報告されているコレステロール以外にSMが重要な因子として働く可能性が示唆された。(2)Misfolding-typeのアミロイドーシスでは原因蛋白質が重合前に一過性にhelix構造をとることが知られている。本研究の結果、GM1誘導性のAss重合にも同様の分子過程が存在し、一過性helix構造が創薬の標的になりうることが示唆された。GAssは、単体で存在するAssとも、またアミロイド線維とも異なる構造を有しており、これを特異的に捕捉する薬剤は効率性と安全性の両面で優れていると期待される。
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