研究概要 |
シナプス近傍での新規蛋白合成はシナプス伝達の効率の可塑的変化を引き起こし、学習、記憶といった脳高次機能に深く関わっていると考えられている。これまでの研究で神経栄養因子BDNFの刺激によりシナプス近傍でmTOR(mammalian target of rapamycin)シグナル経路を活性化して、翻訳すなわち蛋白合成に促進的に働いていることを明らかにした。BDNFは学習記憶にも深く関与していることから、本年度はラット個体を用いて空間学習の獲得という高次脳機能における翻訳調節機構を明らかにした。8方向迷路で空間学習を獲得したラットの海馬ではmTOR及びその下流の翻訳調節因子(4EBP,p70S6K,eEF2)が活性化している事をウエスタンブロット法及びmTOR酵素活性の測定により明らかにした。また抗リン酸化抗体を用いた免疫組織化学により、これらの因子は海馬の錐体細胞において特異的に活性化している事も明らかにした。錐体細胞では細胞体だけでなく樹状突起上にも強いシグナルを認め、局所的翻訳活性化を強く示唆していた。mTORの阻害剤であるラパマイシンの脳室内投与は学習の獲得を遅延させることも見出した。さらに現在mTOR(+/-)マウスを用い解析を進めている。
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