RNAポリメラーゼII(RNAP II)最大サブユニットカルボキシル末端領域(CTD)は、転写中にダイナミックなリン酸化を受けることによって、RNAプロセシング因子の転写部位への集合・離散を制御するscaffoldとして機能している。本研究は、CTDのリン酸化や構造変換を調節する因子およびリン酸化CTDに結合する因子の新規同定と機能解析を通じ、転写とRNAプロセシングを連携させている分子機構を解明することを目的としている。これまでにヒト新規タンパク質PCIF1およびプロリルイソメラーゼPin1など4種類のWWドメイン核蛋白質をリン酸化CTD結合因子として独自に同定して来た。本年度は、ヒトPCIF1および酵母CTD脱リン酸化酵素Ssu72の脊椎動物オルソローグの、転写とmRNAプロセシングの共役における役割を検索するために、それぞれのタンパク質を含む細胞内複合体の精製とトリB細胞株DT40を用いた遺伝子ノックアウトを行い次のような中間結果を得た。(1)タンデムアフィニティータグをC-末端側に融合させたPCIF1またはSsu72を誘導発現出来るヒト安定細胞株をそれぞれ樹立した。これらの細胞株より調整した核抽出物に対しアフィニティークロマトグラフを行い、PCIF1またはSsu72を含むヒト細胞内複合体を精製した。現在精製したヒトPCIF1複合体の構成因子を質量分析によって同定している。(2)トリPCIF1遺伝子ノックアウトDT40細胞株を樹立し、ノックアウト細胞株と正常細胞株において、UV照射によって引き起こされるRNAP IIの特異的な分解の速度を比較したところ有意な差異が観察された。この結果から、PCIF1がストレス条件下におけるリン酸化RNAP IIの細胞内代謝を調節している可能性が示唆された。
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