本年度は、核内の成熟体tRNAの生理的機能の解明と、tRNAの核内輸送の機構解明に向けて、核内輸送に関わる因子の同定を中心に研究を展開した。特に、遺伝学的にtRNAの核内輸送関連因子を探索する目的で、Δlos1 Δmsn5二重変異株の示す核への成熟体tRNAの蓄積を軽減する抑圧変異の単離、tRNA-Metの不安定化を引き起こすtRNAメチル化酵素遺伝子変異trm6-504とΔlos1変異とが示す合成致死性を抑圧する変異の単離を行った。この中で、前者のスクリーニングからΔlos1 Δmsn5株におけるtRNAの核内蓄積が低減する温度感受性変異株が2株、trm6-504 Δlos1合成致死性の抑圧変異株が4株取得できた。後者の4株の内にはΔlos1変異であるにもかかわらず、核内の成熟体tRNA-Pro量が明らかに野生型レベルまで下がっている株が3種含まれていることがFISH解析で明らかとなった。これらのことは、単離された変異株においてtRNA-Metの分解回避による生育の回復と、tRNAの核への輸送量の低下・核外への輸送の亢進に密接な関連があることを示唆している。現在、こうした表現型を引き起こす変異原遺伝子の同定を進め、tRNA分解とtRNAの核内輸送の関連について解析を進めている。 さらに、本研究では、細胞内での新たなRNAの検出方法の検討を行い、RNAの3'末端の数塩基分の配列の違いを識別してその局在を観察できるOligonucleotide-directed 3'-terminal extension of RNA法(OTTER法)を開発した。この方法によって、tRNAのCCA末端の短縮化を引き起こすcca1-1変異株中において、正常なtRNAは細胞質に留まるが、3'末端の短縮化したtRNAが特異的に核内に運ばれることを明らかにした。
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