RNAi(RNA interference)とは真核生物の細胞に二本鎖RNAを導入した場合に相同配列を持つ遺伝子の発現抑制が生じる現象であり、遺伝子発現を制御する新しい手段として有用である。我々は線虫C.elegansをモデル生物として用いてRNAiの反応機構について生化学と遺伝学を組み合わせた研究を行った。生化学的な解析を進めるために、初年度およびその準備期間に、線虫の細胞抽出液を用いてRNAiを再現する無細胞反応系を独自に開発してきた。本年度は開発した無細胞反応系を用いて、RNAiにおける標的mRNAの切断反応およびシグナル増幅機構について解析した。 まず、無細胞系へmRNA及び合成siRNAを導入する実験によって、mRNAの配列特異的な切断(Slicer)活性の検出を行った。興味深いことに、線虫におけるSlicer活性は2本鎖のsiRNAよりも1本鎖のsiRNAでより強く誘導できるという特徴を持つことが分かった。又、植物や菌類そして線虫においてはRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)がRNAi反応に必要とされることが知られており、そのRdRP活性を無細胞系で検出することを試みた。その結果、不完全な形状のmRNAを鋳型として22〜23塩基長の小分子RNAを合成するRdRP活性を検出できた。この活性は、RNAi反応機構の下流において標的mRNAを鋳型として2次的siRNAが産生されるシグナル増幅反応に対応するものと考えられる。又、既知のRNAi欠損変異体の中の数種類がRdRP活性の異常を示すことも判明した。
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