本研究では、細胞極性の分子レベルでの研究が最も進んでいる出芽酵母を用いて、mRNAの細胞内局在の分子機構および細胞極性の確立や維持に関与する因子のmRNA局在における機能を明らかにする。また、動物細胞から酵母相同遺伝子を機能的に分離することにより、動物細胞におけるmRNAの局在機構およびその細胞極性との関連を明らかにする。本年度の研究では、出芽酵母および動物細胞におけるmRNAの細胞内局在の分子機構、および細胞極性の形成に重要な細胞間接着の形成機構について解析し、以下の成果を得た。 (1)酵母において、細胞運命決定因子をコードするASH1のmRNAの局在および翻訳制御に関与するRNA結合タンパク質Khd1がASH1 mRNA以外の複数のmRNAとも相互作用することを見出した。 (2)Khd1がSignal recognition particleのサブユニットSec65と結合することを見出した。 (3)酵母Khd1のヒトホモログをクローニングし、Khd1ヒトホモログと相互作用する因子として、RNA結合モチーフをもつ新規タンパク質を同定した。 (4)ショウジョウバエにおいてmRNAの局在に重要な役割を果たすRNA結合タンパク質Staufenのヒトホモログをクローニングし、ヒトStaufenと相互作用する因子を同定した。 (5)上皮細胞の細胞間接着の形成には、アファディンとアクチン細胞骨格が必須の役割を果たしていることを明らかにした。 (6)上皮細胞の細胞間接着の形成には、カルシウムとリン脂質依存性にアクチン線維を結合するアネキシンII-S100A10複合体が関与していることを明らかにした。 このように本年度は、出芽酵母および動物細胞におけるmRNA局在・翻訳制御に関与する因子の同定、細胞極性の形成に重要な細胞間接着の形成機構について、成果をあげることができた。今後、RNA結合タンパク質と細胞間接着、細胞極性との関連を分子レベルで検討していく。
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