セレノシステインSecは"21番目のアミノ酸"と呼ばれ、遺伝子上に巧みにコードされた特殊なアミノ酸である。mRNA上の通常終止コドンであるUGAが引き続く特殊な2次構造をもつRNA配列(SECIS)が存在するとき、UGAコドンがSecの遺伝子コードに変身し、蛋白質中に取り込まれる。その際に特殊な伸長因子SelBが必要となる。SelBは通常の伸長因子EF-Tuと異なり、セレノシステイン特異的tRNAを結合するEF-Tuに相同性の高いN末端ドメインと、SECIS RNAを認識する特別なC末端ドメインを持つ。これまでに我々はwinged helix様構造を有するC末端ドメインのうち一部であるmRNA結合最小ドメイン(SelB-M、512-634)とRNAとの複合体の結晶構造解析に成功し、新規のRNA認識機構を明らかにした。そこで、本研究では、引き続きC末端ドメイン全長の動的な構造変化とSelB全長の翻訳過程におけるコミュニケーションの構造的基盤をX線結晶構造解析により明らかにすることを目指す。 本年度はM.thermoacetica SelB C末端ドメイン全長(SelB-C、377-634)を作製した。このSelB-C蛋白質と20残基からなるSECIS mRNAヘアピンとの複合体を作製し、結晶化を試みた。その結果、2種類の異なる条件で結晶を得ることに成功した。現在Spring8にて得られた結晶回折データを用いて、これまでに決定したSelB-MとSECIS複合体の構造を基に、分子置換法により、構造決定を試みている。また、N末端ドメインについても大腸菌での発現系の構築を進めている。
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