研究概要 |
本特定領域研究では、分子遺伝学的手法が駆使でき、かつ高等生物に極めて近い細胞内シグナル伝達経路を有するモデル生物である分裂酵母を用いて、RNA結合蛋白質を介するシグナル伝達制御のメカニズムを解析した。 まず、遺伝学的手法により、複数の新規RNA結合蛋白質を同定した。その中の一つであるKHタイプのRNA結合蛋白質であるRnclは、MAPキナーゼの脱リン酸化酵素であるPmp1 mRNAと結合し、安定化することで、MAPキナーゼシグナルを負に制御する役割がある。しかも、RnclはMAPキナーゼによるリン酸化シグナル依存的に、Pmp1 mRNAの安定性を制御する。そこで、Rnclの制御機構を明らかにし、MAPキナーゼシグナルに与える影響を解析した。その結果、Rnclが核内核外移行による制御と、ユビキチンプロテアソーム経路による制御を受けることを明らかにした。また、tRNA deaminaseの突然変異体であるtad3-l mutantを単離し、この変異体が、細胞周期のG1/S, G2/Mの移行に重要な働きをしていることを明らかにした。 さらに、新規RNA結合蛋白質として、RRMタイプのRNA結合蛋白質を同定し、アクチン結合蛋白質のmRNAと結合し、安定化することを見出した。さらに、Pmk1 MAPキナーゼが、このRNA結合蛋白質をリン酸化することにより、RNA結合能力を負に制御することにより、細胞質分裂を制御する可能性を示唆するデータを得た。 これらの結果は、従来MAPキナーゼシグナルは転写因子のリン酸化を介して遺伝子発現を制御すると考えられてきたが、RNA結合蛋白質はMAPキナーゼによるリン酸化を受けてmRNAの安定性や翻訳の制御などのメカニズムを介して、遺伝子発現の鍵と握る重要な役割を果たしていることを提唱する。
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