翻訳開始のメカニズムを探るため、翻訳開始を試験管内で再現する再構成翻訳開始系の構築を行った。ほとんどすべての翻訳因子はリコンビナント体として得られ、再構成系に利用できるようになった。しかし、eIF3は11個のサブユニットで構成される複合タンパク質であるため、これまでは細胞から精製したものを使用していた。ところが、翻訳におけるストレス反応にeIF3が関与していることが明らかにされつつあるため、eIF3をリコンビナント体として得る必要に迫られた。それは、各々のサブユニットがどのように働いているかを探るためである。そこでバキュロウイルスで11個のサブユニットを同時発現できる系を構築した。様々な条件を検討し、11個のサブユニットから構成されるリコンビナントeIF3を精製することに成功した。このeIF3は再構成翻訳開始系にて活性を有していることが確認された。次にどのサブユニットが翻訳開始に必要かを探るために一つのサブユニットが欠けたeIF3の作製を行った。ほとんどのサブユニットは欠損させても複合体の形成が可能で活性にもあまり影響は与えなかった。しかし、一番大きなサブユニットと二番目に大きなサブユニットであるeIF3aとeIF3bは欠損させると複合体の形成が不可能であることがわかり、この二つのサブユニットがeIF3の中心に位置している事が示唆された。興味あることに酵母のeIF3で必須因子である三つのサブユニットは欠損させてもeIFの機能は失わないことがわかった。 再構成翻訳開始系を補足する実験システムとして無細胞翻訳系の改良に努めた。翻訳開始因子を添加することにより非常に効率の良い系を得る事に成功した。現在はこの無細胞翻訳系から抗体を用いて内因性のeIF3を除去し、上で得られたリコンビナントeIF3を加えることでeIF3の機能の更なる解析を行っている。
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