我々は、中枢神経系の層構造の形成時に細胞タイプ特異的な振る舞いを制御する遺伝子を同定するために、それぞれの細胞タイプで特異的に発現している遺伝子を単一細胞サブトラクション法を用いて同定して来た。その過程で、通常のmRNAと異なり転写産物が核に局在するというユニークな性質を示す遺伝子断片が得られたのでその性質を詳しく解析した。この遺伝子のmRNAはノザンブロット上で約9kbの移動度を示したが、cDNAの全長にわたって有意なタンパク質をコードしていなかった。また、蛍光in situ hybridization法を用いて高解像度でmRNAの局在を調べたところ、核内にスペックル状のシグナルが見られた。この特徴的な細胞内局在から、我々はこの遺伝子をgomafu(胡麻斑)と呼ぶ事にした。スペックル状のシグナルはイントロンプローブでは見られなかった事、またOligo-dTフラクションにmRNAが濃縮される事から、スプライシングを受けpolyAが付加された転写産物が核に蓄積している事が予想された。また、核マトリックス分画でのgomafu RNAの発現を調べたところ、やはりスペックル状のシグナルを観察する事ができた。従ってgomafu RNAは核マトリックスの構成因子の一つである事が示唆された。また、各種核内ドメインマーカーとその発現を比較したところ、クロマチン間顆粒群や核小体などの既存の核内ドメインとは異なるパターンを示す事が分かった。さらに細胞レベルでの発現を比較したところ、gomafuはPCNAを発現していない、おそらく最終分裂を行ないつつある初期神経細胞で発現している事が分かった。
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