根原基の発達から根端分裂組織の確立に至る過程およびシュート再生において茎頂分裂組織が新たに形成される過程について、シロイヌナズナの温度感受性突然変異体(srd2、rid1、rid3、rpd2、rgd3など)を用いた分子遺伝学的解析を行った。 脱分化(細胞増殖能獲得)と分裂組織形成の両方に関わるsrd2とrid1に関しては、SRD2がsnRNA転写活性化因子をコードすること、rid1がプレmRNAスプライシングへの関与が予想されるRNAヘリカーゼ遺伝子に変異を有することをこれまでに突き止めていた。本年度の解析では一部の転写産物のスプライシングパターンにこれらの変異が影響することが新たに分かり、SRD2によるsnRNA蓄積量増大がスプライシング活性の上昇を通して脱分化や分裂組織形成に関わっていることが示唆された。また、半同調的に側根形成を誘導できる実験系を確立して、SRD2の発現を精査した結果、SRD2がCDKA;1とよく似た特異な発現パターンを示すことが判明した。 rid3、rpd2、rgd3の3変異体は、脱分化や基本的な細胞増殖の温度感受性は軽微で、カルスからのシュート再生が強い温度感受性を示す。器官再生と通常の発生に対する各変異の影響から、RID3とRPD2は頂端分裂組織の新形成全般に重要な機能を果たすが、確立した分裂組織の維持における働きは限定的であること、RGD3は分裂組織の新形成と維持の両方に深く関与するが、新形成における役割は茎頂分裂組織に特化していること、などが推察された。また、シュート再生過程における遺伝子発現の解析により、RID3がCUC・STM経路の抑制的制御、RGD3が同経路の促進的制御に、それぞれ関わっていることが示された。RID3遺伝子をポジショナルクローニングにより単離した結果、機能未知のWD40リピートタンパク質をコードしていることが分かった。
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