ジャスモン酸(JA)の生合成もしくは感受性に異常があるシロイヌナズナの突然変異体が共通して開花の遅延という表現型を示すことから、蕾の成熟〜開花の過程にはJAが何らかの機能を持っていると考えられる。今年度は蕾におけるJA生合成の制御機構と、開花時における花器官成熟の同調性の機構についてシロイヌナズナを用いた解析を行った。 1.DAD1遺伝子の発現制御機構の解析 DAD1はJA生合成経路の出発物質となるリノレン酸を葉緑体の膜脂質から切り出す酵素であるが、MGDG-O(葉緑体膜脂質であるMGDGの脂肪酸がJAの前駆物質であるOPDAと置換したもの)を分解してOPDAを遊離する作用もあると推定され、JA生合成の調節段階を担っている可能性もある。DAD1は開花の約2日前から花糸特異的に発現するが、JA定量の結果、その場所は、つぼみの中でJAが最も多量に蓄積する場所と一致していた。シス解析の結果、この発現を決める配列は、推定転写開始点より約2kb上流の、約600bpの範囲に存在することがわかった。一方、開花遅延の表現型を示すauxinresponse factor6(arf6) arf8二重突然変異体では、DAD1の発現が強く抑制され、JAの蓄積量も著しく減少していた。arf6 arf8の花ではDAD1:GUSの発現も低下していたが、先の600bpの中には典型的なARE配列は存在していなかった。ARF6、ARF8はDAD1の発現誘導に必須であるが、その制御はさらに何らかの因子を介すると推定される。 (2)雄しべと花弁が非同調的な伸長を示すdefective coordination1(deco1)の解析 開花時の雄しべの伸長が野生型よりも早く起こり、逆に花弁の伸長は抑制される突然変異体deco1を見いだし、解析を行った。花弁、雄しべとも細胞数は野生型と変わらず、細胞の伸長制御に異常があると推定された。マップベースクローニングの結果、DECO1はシトクロムP450モノオキシゲナーゼをコードし、DAD7とよく似た花糸特異的発現が観察された。deco1では雄しべと花弁の両方でJA量が低下していた。DECO1はJAの生合成または代謝に関与する酵素であると推定される。
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