高等植物における側根形成の分子機構を明らかにすることを目的として以下の研究を行った。 1、側根形成開始で機能するオーキシン応答転写調節因子ARF7、ARF19およびAux/IAAタンク質 SLR/IAA14によって制御される下流因子の探索と解析 側根形成能が顕著に低下するシロイヌナズナarf7 arf19二重変異体の表現型を過剰発現によって回復させる遺伝子として、LBD16/ASL18とLBD29/ASL16(LOB/AS2ドメインタンパク質をコード)を同定し、これらが根の内鞘を含む組織で発現することを示した。次に、arf7 arf19二重変異体においてARF7-GR(Glucocorticoid Receptor)またはARF19-GR融合タンパク質を発現する形質転換体を作出し、Dex依存的に側根形成能が回復する植物系統を確立した。そして、この誘導系植物においてLBD16/ASL18とLBD29/ASL16の転写がタンパク質合成阻害剤存在下でもDex依存的に誘導されること、およびARF7がLBD29/ASL16遺伝子プロモーターに結合することを確認した。以上の結果から、LBD16/ASL18とLBD29/ASL16がARF7やARF19の直接の標的遺伝子として側根形成開始に機能することが強く示唆された。 2、側根形成を負に制御するクロマチンリモデリング因子PKL/SSL2の解析 slr変異体の側根欠失表現型を抑圧するサプレッサー変異体ssl2の原因遺伝子PICKLE(PKL)が動物のクロマチンリモデリング因子Mi-2相同タンパク質をコードすることに基づき以下の結果を得た。動物のMi-2はHDAC(ヒストン脱アセチル化酵素)と複合体を形成し標的遺伝子の転写抑制に働く。そこで、slrをHDAC阻害剤のTSA(trichostatin A)で処理したところ、slrの側根欠失表現型が部分的に回復することがわかった。また多重変異体解析から、ssl2 slrやTSA処理したslrで起こる側根形成がARF7/ARF19の機能に依存することを見出した。これらの結果から、PKLとHDAC活性を介したクロマチンリモデリングが、slr変異体におけるARF7/ARF19の下流遺伝子の転写抑制に関わることが強く示唆された。
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