虚血・栄養飢餓・遺伝子変異などの細胞外的・内的刺激によって誘導される小胞体ストレスを受けた細胞は、危機的状況を回避するためにUnfolded Protein Responseによって幾つかの「生のシグナル」が伝達される。一方、あまりにも過度の小胞体ストレスにさらされた細胞は自ら「死」を選ぶことになるが、この小胞体ストレス誘導性アポトーシスの分子機構については不明な点が多い。本研究では、疾患との関連性において近年注目されている小胞体ストレスによる細胞死の分子メカニズムを明らかにすることによって、疾患分子機構の解明につなげることを目標とした。その疾患モデル実験系として、近年小胞体ストレスとの関連が多数報告されている神経変性疾患の一つ、筋萎縮性硬化症に着目した。我々は、これまでにノックアウトマウスを用いた解析から、小胞体ストレス誘導性アポトーシスにASK1が必須であることを見いだしている。そこで、筋萎縮性硬化症モデルマウスとASK1ノックアウトマウスの交配実験により、ASK1が疾患病態進行に重要な役割を担っていることを明らかにし、国際学会等で報告した。また、家族性筋萎縮性側索硬化症の原因遺伝子であるSOD1変異体が小胞体ストレスを惹起することを明らかにするとともに、その分子機構とそれに関わる分子を同定することを試みた結果、変異型SOD1が小胞体ストレスを起こす標的分子を同定し、その分子との結合解離が創薬標的になることを発表し、特許出願を行った。今後、これらのシグナル分子メカニズムが明らかになれば、小胞体ストレスに関連する他の疾患分子機構にも応用されると期待される。
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