長期血液透析患者の骨関節組織に沈着するβ2-ミクログロブリン(β2-m)アミロイド線維は、従来試験管内ではpH2.5という酸性域でしか伸長せず、中性pHでは脱重合していた。最近、特定の生体分子群がβ2-mアミロイド線維(fAβ2M)に特異的に結合し線維を安定化させること、臨界ミセル濃度程度のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)が中性pH域でβ2-mの立体構造を部分的に変化させ、線維伸長を引き起こす事を解明した。本研究では、SDSと同様の効果を有する生体分子を探索し、生体内線維形成機序を解明する事、及び線維形成を阻害・不安定化させる有機化合物を探索し、治療薬開発への糸口をつかむ事を目指す。これにより、病態解明の進展と、新たな治療戦略の構築が期待できる。本年度の成果は下記の通りである。 1.SDSに類似した構造を持つ生体分子であるリゾリン脂質について、fAβ2M伸長効果を解析した。疎水基である脂肪酸の炭素数が14〜18で、マイナスに荷電した親水基を持つリゾフォスファチジン酸とリゾフォスファチジルグリセロールは、fAβ2Mの伸長促進効果を示した。一方、親水基の正味荷電がゼロであるリゾフォスファチジルコリン、リゾフォスファチジルエタノールアミンには効果が認められなかった。 2.超音波による核形成の誘導;β2-mモノマー単独では酸性pHや、中性SDS存在下等の線維が伸長する条件下で孵置しても線維は形成されない。ここに超音波処理を行うと、アミロイド線維の核形成反応が起こり、線維が形成されることを示した。これは超音波振動を加えることで衝突確率が増加し凝集が促進されたことを示し、核形成反応がある確率で生成し得る物理化学的過程であることを意味している。この知見から、生体内では特定の分子環境によるβ2-m分子の局所濃縮等の核形成反応促進機序が示唆され、今後探索を行う予定である。
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