研究概要 |
培養細胞に小胞体膜タンパク質を過剰発現させると細胞内に特殊な膜構造物(クリスタロイド小胞体、cER)が誘導されることが知られているが、私は偶然、ミトコンドリア(Mt)移行前駆体酵素(SPT45K)を過剰発現させたときにも同様の膜構造が誘導されることを見出した。小胞体(ER)内腔局在性GFPをレポータータンパクとして使用し、過剰発現によるcER形成能を各タンパク質で定量的に評価したところ、すでに報告のあるアルデヒド脱水素酵素(ALDH)、またSPT45K以外に他のMtマトリックス移行前駆体タンパク質(pOTC, pAd)もER凝集物形成を誘導することが明らかとなった。また、ALDHのER局在化配列をEYFPのC末に連結したキメラタンパク質はこれまでにはない非常に強力なER凝集物誘導能を有していた。ALDH, SPT45KによるcERの誘導は、それらのオルガネラ移行配列を欠失したタンパク質ではまったく引き起こされないので、タンパク質の構造に依存していることはもちろんであるが、更にその発現量にも依存していた。すなわち、細胞は細胞質におけるタンパク質の質と量を認識して、それに応じた新規の小胞体膜構造物を誘導する応答系を有していると解釈された。 本研究では細胞質におけるタンパク質の過剰発現を研究対象としており、ER内腔でのタンパク質の過剰発現により引き起こされる変性タンパク質応答(UPR)とはその発現場所が異なっている。実際、cERを誘導する条件ではUPRは作動していないことがルシフェラーゼを用いたレポーターアッセイ系で確かめられた。また、「ヒートショック応答」も作動していないという結果であった。cERの形成は従来考えられてきた「ER膜タンパク質の過剰発現による人工産物」というよりも、もっと積極的に生理的意味を持つもの(たとえば、変性しやすいタンパク質の過剰蓄積による細胞毒性の緩和など)ではないかと考えられた。
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