情報を正確に発現する為に、細胞はmRNAの品質を厳密に監視して不良品を速やかに除去するサーベイランス機構を保持している。例えば、終止コドンを含まないmRNA(以下ノンストップmRNA)由来の遺伝子産物を積極的に排除するシステムは、生物種を超えて存在する。原核生物では、トランス翻訳と呼ばれる機構により異常タンパク質が分解される。真核生物においては、ノンストップmRNAを分解する系が最近発見され、3'→5'方向の分解が主要な役割を果たすことが示された。我々は、酵母を材料として真核生物におけるノンストップmRNAの翻訳とmRNA分解機構について解析し、ノンストップmRNAの翻訳抑制と5'→3'方向の分解の関与を明らかにした。また我々は、大腸菌においてノンストップmRNA由来のタンパク質の発現レベルをtmRNA非存在下で検討し、終止コドンを持つmRNAと比較してほぼ同程度であることを見出した。これは、原核生物においてはノンストップmRNAの翻訳が抑制されない為、トランス翻訳による積極的な異常タンパク質の排除機構が必要となる可能性を示唆していた。平成17年度には、大腸菌におけるポリソーム解析を行い、ノンストップmRNAが正常なmRNAと同様の効率で翻訳されることを萌明らかにした。これは生体内において、終止コドン非依存の翻訳終結が正常な翻訳終結と同等の効率で起こる事を初めて示したものである。さらに真核生物でのノンストップmRNAの翻訳抑制とタンパク質の分解を区別するシステムを開発し、ノンストップmRNA由来の異常タンパク質発現の抑制機構として、翻訳抑制とタンパク質の分解の両方が寄与することを見いだした。
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