遺伝情報発現の正確性を保証する為に、細胞はmRNAの品質を厳密に監視して不良品を速やかに除去する機構を保持している。未成熟終止コドン(ナンセンス変異)を保持するmRNAは、ヒトから酵母まで普遍的に存在する分解系(NMD)により分解される。また、終止コドンを含まないmRNAを分解する系が最近真核生物において発見され、NSD(nonstop-mediated decay)と名付けられた。私は、ノンストップmRNAの翻訳と分解について詳細な解析を行い、1)ノンストップmRNAの翻訳開始以降の段階での抑制と、2)5'→3'方向のmRNA分解の促進を明らかにした。さらに、ノンストップmRNA由来の遺伝子産物の発現抑制機構を解析した。その結果、正常なmRNAでは翻訳されないポリ(A)鎖が翻訳されることで、ポリ(A)鎖の翻訳産物であるポリリジンによる翻訳伸長アレストと、それに共役したプロテアソームによる異常タンパク質の分解という多段階での発現抑制機構が働くことが明らかになった。この結果は、ポリ(A)鎖の翻訳自体が、多段階での発現抑制機構を作動させ、品質管理機構において必須な役割を果たすことを初めて明確に示したものであり、真核生物のmRNAの最も普遍的な修飾であるポリ(A)鎖の新しい役割が明らかになった。 細胞内における最も一般的な異常mRNAはナンセンス変異を持つmRNAであり、NMD(nonsense-mediated mRNA decay)より速やかに分解/除去されることが明らかとなっている。ナンセンス変異を持つmRNA由来の異常タンパク質の発現について解析した結果、NMDに必須なUpf複合体がプロテアソーム依存に異常タンパク質の分解を促進することをみいだした。これは、異常タンパク質の分解促進というUpf複合体の新しい役割を示唆する。また、ノンストップmRNA由来の遺伝子産物の発現抑制機構とあわせて考えると、翻訳に共役した異常タンパク質の分解が品質管理機構の普遍的な分子機構である可能性を示唆している。
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