研究概要 |
原索動物マボヤは雌雄同体で精子と卵を同時に放出するが自家受精は起こらず,厳格なアロ認識機構があることが知られている.我々は,12回のEGF様反復配列からなる卵黄膜タンパク質(HrVC70)が,個体レベルでの分子多型を示し,マボヤの受精において自己非自己識別能を有する精子受容体として機能することを報告している.本研究では,この変異が正のダーウィン選択圧を受けていることを最尤法解析により明らかにした.また,糖鎖修飾に関しても解析を行った.HrVC70には5カ所のフコシル化部位が存在するが,実際にフコース修飾されているか否かをTOF/MS分析により調べた.その結果,置換の多いサイトには糖鎖修飾が見られるが,変異の少ない第10ドメインでは糖鎖修飾は観察されなかった.アロ認識に糖鎖が関わる可能性も考えられる.次に,マボヤと同属のアカボヤからVC70ホモログを探索することを企画し,そのcDNAクローニングと構造解析を行った.アカボヤホモログ(HaVC80)は分子量80Kで,HrVC70の8番目のEGFが重複した13回のEGFドメインにより構成されることが判明した.この分子は130kの前駆体タンパク質として生合成され,C末端が切断されて成熟型分子になる.HrVC70とHaVC80の基本構造は酷似ており,アミノ酸置換領域も似ていた.この分子は精子レセプターなので,ドメイン重複が起こると精子-卵相互作用に影響が及び,種分化につながる可能性がある.今回の解析により,VC70/80分子は種分化や進化に関与する可能性が示された.次に,タンパク質の死としての分解機構についても検討を行った.マボヤ精子からユビキチン化酵素を精製するのは困難であったが,カタユウレイボヤのゲノム構造をもとにした遺伝子モデルから探索を行った.そして,2つのE3候補分子を同定することに成功した.
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