アミロイド前駆体蛋白質(APP)は家族性アルツハイマー病の原因遺伝子であり、アルツハイマー病発症機構に深く関与すると考えられているが、いかにしてその病態および発症機構に関与するのかという点において、未だに未解明の部分がある。本研究では、研究代表者が最近同定した、APPと遺伝学的に相互作用するショウジョウバエ新規遺伝子(仮称:517遺伝子)の解析を通じて、この問題にアプローチすることを目指した。517変異体は早期死亡の表現型を示すが、この表現型は、ショウジョウバエAPP遺伝子(Appl遺伝子)のヌル変異をヘテロまたはホモでさらに導入することによって、dose dependentに増悪した。また、517変異体では、タウのリン酸化の上流制御因子であるdab遺伝子の発現が減少しており、リン酸化抗体を用いたウェスタン解析によって、タウのリン酸化が昂進していることが示唆されている。外来性に発現した517-HA融合蛋白質の細胞内局在を、蛹期の脳において、抗HA抗体による免疫染色によって調べたところ、小胞体の辺縁部にドット状に局在し、その局在はcisゴルジのマーカーとはオーバーラップしなかった。現在、517遺伝子産物がAPPおよび関連蛋白質の小胞体からのトラフィッキングを制御し、このプロセスに異常が生じることによって、タウのリン酸化の昂進などによって神経機能が損なわれていくという仮説を、遺伝学的に検証していこうとしている。
|