シロイヌナズナの小胞体ストレス応答で重要な働きをすると考えられる転写因子AtbZIP60の機能解析をおこなった。具体的には、1、AtbZIP60の遺伝子破壊株を単離と解析、2、AtbZIP60に対する特異抗体の作成と抗体を用いたAtbZIP60のタンパク質レベルでの挙動の解析をおこなった。1については、野生型と遺伝子破壊株の間でツニカマイシン処理により変動する遺伝子の比較をアジレント社製のマイクロアレイを用いておこなった。その結果、ツニカマイシンで3倍以上誘導される133の遺伝子うち34個の遺伝子の発現が破壊株では野生型の半分以下に低下していた。特にBiP3などの遺伝子は、破壊株では野生型の10分の1以下に誘導が減少しており、AtbZIP60が小胞ストレス応答遺伝子の制御に関わることが確認された。しかし、破壊株で全ての小胞体ストレス応答遺伝子の誘導が抑制されているわけではなく、破壊株は野生型と同様の生育を示した。従って、AtbZIP60が関与する以外の情報伝達経路が存在することが示唆された。一方、2に関しては、、AtbZIP60が膜貫通領域を有すること、膜貫通領域を除いたタンパク質の一過的発現によりBipなどのプロモーターが活性化されることからAtbZIP60はタンパク質レベルで切断されることが予想された。そこでAtbZIP60に対する特異抗体によりタンパク質の挙動を調べたところ、ツニカマイシン処理やDTT処理などの小胞体ストレス処理によりAtbZIP60がタンパク質レベルで切断されることが確認された。さらに切断されたbZIPドメインと転写活性化ドメインを含む領域が核に局在することも確認した。従って、AtbZIP60は哺乳類のATF6と同様にタンパク質レベルで切断を受け、小胞体ストレス応答関連遺伝子の転写に関わるという仮説を証明することができた。
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