分泌系における新生タンパク質の動きの制御を理解するために、生細胞での内腔での1分子観察を検討した。これまでも、蛍光相関分光法(FCS)による解析は行ってきたが、FCSでは基本的に既存のモデルへのfittingによる解析であり、個々の分子の動き自体は知ることができない。小胞体は細胞膜と結合したオルガネラなので、エバネッセント照明を用いる全反射顕微鏡による1分子観察が可能と考えて、観測を行った。その結果、生存時間の短い輝点が観測され、個々の輝点は、FCSで予測される拡散係数で変位することがわかった。生存時間も変位と相関するはずなので、これを一次元ブラウン運動と見なし、first passage time解析を行うと、この次元における拡散係数を得ることができ、この2次元とz軸方向の拡散係数を用いることで、小胞体内腔での個々の分子の動きについて解析することが可能となった。 これらの手法を用いて、カーゴ蛋白の軌跡を解析したところ、N型糖鎖を持つ場合には、顕著な一時的な拘束が起こり、これは膜表面へのごく短時間の結合によることが示された。これは、フォールディングには依存せず、カルネキシンとは関係しない。現時点では、この受容体は明らかではないが、分泌タンパク質のうちの9割以上を占める糖タンパク質の分子間衝突の制御に関与する可能性が考えれる。 これまで仮定されてきたように、多くの小胞体内カーゴ分子の変位は、ブラウン運動の特性を示した。しかし、一部は、flowの特性や、confined movementの特徴を持ち、その割合は分子の成熟化との関連において変化することが明らかにされた。このような研究により、これらの動きと、分子運命の関連、及び制御機構について研究を進めることが可能となった。
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