研究概要 |
上皮増殖因子(EGF ; epidermal growth factor)受容体は,EGFに結合して増殖シグナルを発信した後に,細胞膜からエンドサイトーシス経路を通ってリソソームへ運ばれて分解される.この経路では,受容体のユビキチン化が輸送シグナルとして機能することが知られている.ユビキチンリガーゼであるCb1の局在を調べたところ,従来考えられていた細胞膜ではなく,むしろエンドソームに局在することが明らかになった.このことは,ユビキチン依存的な受容体の選別がエンドソームで行われ,さらにエンドソームでEGFシグナリングが起こる可能性を示唆するものである.次に,Cb1はエンドソームからリソソームへ輸送される間にEGF受容体から離れ,AAAタイプATPaseであるSKD1が,受容体とCb1を解離させることを強く示唆する結果を得た.SKD1の機能を阻害すると,受容体の輸送がエンドソームで止まり,Cb1とずっと結合した受容体のユビキチン化が亢進した.ユビキチン化を完了させる分子メカニズムについては全く分かっていなかったが,基質とリガーゼがSKD1のような分子シャペロンによって引き離される可能性が浮上した. エンドサイトーシス経路は,細菌やウイルスの細胞内侵入に利用される場合もある.歯周病菌の侵入メカニズムについて調べたところ,宿主細胞膜のコレステロールに富んだドメインが,菌が侵入する際の足場として必要であることを明らかにした. オートファジー経路については,オートファゴソーム形成に必要なAtg9タンパク質がゴルジ体に局在することを示した.また,この経路は細胞質のタンパク質を非選択的に分解することが知られていたが,小胞体に蓄積した異常タンパク質の除去にも関わることを明らかにした.これは,アンチトリプシン欠損症の原因となる,アンチトリプシンZ変異型の分解機構の研究から得られた知見である.
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