紫外(UV)光の照射による酸化チタン(TiO_2)表面の超親水性の発現が藤嶋らにより報告された以来、広く注目されているが、その発現機構については分子レベルで未だ解明されていない。本研究では、この機能発現機構を明らかにするため、界面分子構造に敏感の和周波発生(SFG)測定を用い、TiO_2薄膜の表面における分子構造の動的変化を分子レベルでその場評価し、TiO_2薄膜の光触媒活性とその界面分子構造との相関の解明を目指す。 TiO_2としては、ゾルゲル薄膜またはナノ粒子の薄膜を用いた。UV光誘起触媒反応のモデルとして、ラングミュア・プロジェット(LB)法によりアラキジン酸分子(AA)の単分子膜や多層膜、または自己組織化法によりアルキルシランの単分子膜を、TiO_2薄膜表面にそれぞれ構築した。 AA単分子膜のSFGスペクトルにおいては、AA末端のメチル(CH_3)基のC-H伸縮振動に由来する三本のピークが2880、2940と2970cm^<-1>付近に強く、メチレン(CH_2)基に由来するピークは2850と2920cm^<-1>付近に弱く観測された。AAがall-trans配向で基板表面に密に配列する場合、CH_2基がSFG不活性であることを考えると、膜内にgauche欠陥が存在することを示した。一方、UV光で照射すると、SFGスペクトルに大きな変化が見られ、膜の光誘起酸化反応が進行していることを示した。UV照射5分後、AA末端CH_3基のピーク強度が初期強度の1/5以下まで下がったが、CH_2基のピーク強度には殆ど変化が見られなかった。約7分後、CH_2基のピーク強度も減少に転じ、最終的にCH_3基と共に観測できなくなった。これらの測定結果から、AAのUV光誘起酸化反応は二段階で進行していることが分かった。TiO_2表面における他の有機分子膜の光酸化機構についても検討し、膜構造と基板との相互作用の効果について明らかにした。さらに、UV照射に伴うTiO_2表面の親水化過程において、TiO_2表面水酸基及び界面水分子の構造変化についてもその場で調べた。乾燥アルゴン雰囲気下でUV照射または酸素プラズマ処理TiO_2表面では、3200と3400cm^<-1>付近の水素結合した水分子によるSFGピークに加え、3750cm^<-1>付近に鋭いピークが観測された。後者はTiO_2表面水酸基によるものであると考えられる。水で濡らした後で同様の測定を行ったところこの3750cm^<-1>付近のピークは大きく増大したことから、TiO_2親水化発現に伴い表面水酸基に構造変化が起こっていることが示唆された。
|