光合成の初期過程で重要な役割を担っているのがクロロフィルである。酸素発生型の光合成にはクロロフィルaが不可欠だとされてきたが、南洋のホヤに共生する原核藻類Acaryochlorfs marinaが、クロロフィルaではなくクロロフィルdで酸素発生型の光合成を実現している。 通常の酸素発生型光合成は、系1および系2という二つの光化学系から構成されている。我々はこれまで、系1の初発電荷分離体がクロロフィルaのエピマーであるクロロフィルa'であり、系2の一次電子受容体がクロロフィルaの中心金属Mgが外れたフェオフィチンaであることを明らかにしてきた。ところが、クロロフィルdを主要色素とするA.marinaでは、系1の初発電荷分離体がクロロフィルdのエピマーであるクロロフィルd'であるのに対し、系2の一次電子受容体は通常と同じくフェオフィチンaであることを明らかにした。さらに、系2の初発電荷分離体も通常と同じクロロフィルaであった。すなわち、A.marinaはこれまでに例がない色素レベルで非常にキメラな構成であることが判明した。系1のキノンを分析したところ、高等植物と同じフィロキノンが機能していることを明らかにした。 A.marinaが発見されて10年近くたつが、クロロフィルdの生合成経路は不明のままであった。ところが偶然、蛋白質分解酵素パパインがクロロフィルaをクロロフィルdに変換することを見出した。興味深いことに、パパインはクロロフィルaのみに作用し、クロロフィルbやフェオフィチンaには作用しなかった。A.marinaにそれらから由来するクロロフィルが存在しないのはそのためかもしれない。
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