物理的性質がほぼ同じで表面微構造の異なる酸化チタン多結晶薄膜の作製を検討した。加水分解速度の異なるアルコキシドを混合し、加水分解を不均一に起こした前駆体薄膜に一定の条件(18mW/cm^2以上)で真空紫外光(VUV)を照射しその後焼成することにより、屈折率やバンドギャップなど薄膜の光学的性質に影響を与える物性はほぼ同じで表面微構造のみが大きく異なる(粒子系の大きい)酸化チタン多結晶薄膜を作製できた。 この薄膜と、VUV処理を行わない薄膜で、光誘起親水性を水の接触角変化から評価し、光誘起親水性に及ぼす諸物性や表面微構造の影響について調査したところ、0.01mW/cm^2以上の強度の紫外線照射では、その親水化速度はほぼ同じだったが、1.0μW/cm^2の場合、VUV照射なしの膜の親水化速度はVUV照射した膜よりも速かった。表面摩擦力分布測定を行ったところ、紫外線照射によって親水性領域と疎水性領域が現れ、VUV照射なしの膜の場合には、親水性領域のサイズは粒子の大きさとほぼ同じであり、その領域は膜に均質に分布していたのに対し、VUV照射した膜ではVUV照射なしの膜と比べて均質さに劣っていた。このため、親水・疎水領域が均質に現れたVUV照射なしの膜の方が水が濡れ拡がるための親水性ドメインのパーコレート形成に有利であるためと考えられた。 更に光照射による酸化チタン薄膜表面の微構造変化についてAFMと高出力XRDを用いて表面粗さ変化と膜最表面の格子定数変化を調査した。紫外線を照射により、見かけの表面粗さが増加しAFM像が不鮮明になった。その後、AFM像は徐々に鮮明になり、最終的には元の状態へ戻った。これは、紫外線照射によって膜表面の高さが連続的に変化したことに起因すると考えられた。VUV照射した膜は紫外線照射によってa軸はほとんど変化しなかったが、c軸は増加した。これらの結果は、単なる熱膨張や光塑性効果では説明ができず、光照射によって酸化チタン薄膜表面に水が吸着する際の表面の構造変化が関係していると考えられた。
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