研究概要 |
我々はこれまでに、アダマンタン基がスピロ型に結合し、ヘキサフルオロシクロペンテン環が融着したジヒドロ2環性芳香環化合物の熱可逆なフォトクロミズムを研究してきた。これらの化合物は、強い着色と速い熱戻りが達成されれば自動調光サングラスに用いることができる。これまでに、ジヒドロベンゾチオフェンとジヒドロナフタレンのフォトクロミズムを検討したが、前者は光で生成する着色体が熱でなかなか戻らず、後者は熱戻りが速すぎて室温では着色が観測されない。この熱戻りは、ジヒドロ2環性芳香族化合物に存在する芳香環の芳香族共鳴安定化エネルギーの大きさに依存することが予想される。すなわち、芳香族安定化エネルギーの大きいフェニル基がある場合は、それが失われたキノジメタン型の着色体は極めて不安定で、生成するとすぐにベンゼン環を再生しようとするために着色体の濃度が上がらない。それに対してジヒドロベンゾチオフェンの場合は、チオフェンの安定化が小さいために着色体がなかなか消えない。そこで、本年は、芳香族安定化エネルギーがベンゼン環とチオフェン環の間に位置すると予想されるピロール環を持つ、ジヒドロインドールについて調べた。4,5-ジヒドロインドールと6,7-ジヒドロインドールの骨格を持つものを合成した。前者から生じる着色体は後者からのものよりも吸収波長が短波長にあった。消色速度は後者が6倍程度の値になり、速かった。この結果、室温で着色し、消色も比較的速い化合物が合成できた。今後は、この化合物のポリマー中でのフォトクロミック挙動を調べる予定である。
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