研究概要 |
1.固体型色素増感太陽電池における開回路電圧向上 これまで、酸化チタンをはじめとする多孔質酸化物半導体層の表面に種々の高バンドギャップ酸化物を被覆して多層化することにより、n型半導体中に注入された電子の逆電子移動を抑制し、光電変換効率を向上できることが報告されている。しかしながら、この方法では、多孔質TiO_2内に均一に酸化物を被覆するのが難しく、さらに酸化物前駆体を導入後に高温で焼成する必要があるため色素吸着前に行わなければならなかった。本研究では、色素吸着後の多孔質TiO_2n-型半導体層にZnO、MgO等の高バンドギャップ半導体の前駆体である種々の酢酸塩で処理することにより表面修飾を行った。その結果、Iscは減少するもののVocが大幅に向上し、全体として変換効率を4.1%まで向上させることができた。Vocが向上した理由については、多孔質TiO_2表面に形成された酢酸塩の薄層が、剥き出しのTiO_2とCuIの接触界面による電荷再結合を抑制するためであると考えられ、従来の高バンドギャップ酸化物による被覆と同様の効果が得られたものと考えられる。 2.非錯体型有機色素の固体型色素増感太陽電池への適用 最近、湿式色素増感太陽電池において、従来のルテニウム錯体色素の性能に匹敵する非錯体型有機色素が報告されている。有機色素は、価格、供給量の面で優位であるばかりでなく、吸光係数が大きいので、ルテニウム錯体色素よりも少ない吸着量でも、良好な光吸収効率が期待できる。固体型色素増感太陽電池では、酸化チタンの膜厚を厚くするのが難しいという問題点があったが、有機色素を使えば膜厚が薄くても充分な光吸収効率が得られると考えられる。そこで、いくつかの有機色素について固体型色素増感太陽電池への適用を試みた。電解液を用いる湿式セルとCuI固体型セルにおける有機色素の性能比較を目的としてクマリン誘導体有機色素を固体型色素増感太陽電池により評価し、どのような傾向が得られるかを調べた。その結果、NKX2587色素を用いたセルで、Jsc=8.56mA/cm^2,Voc=0.52V,η=2.0%という高い値が得られた。これは、有機色素を用いたCuI固体型色素増感太陽電池としてはこれまでで最もよい効率である。N3色素と比較した場合、有機色素のVocはわずかに増加する傾向が見られたが、Jscが減少したため変換効率はN3色素よりもやや低い値となった。Jscが減少した原因を調べるために、光電流アクションスペクトルや色素吸着量について比較検討したが大きな差はみられなかった。
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