医学などの分野へ応用できる光触媒の開発につなげることを目的として、TiO_2等の光触媒や光増感物質が引き起こす生体分子損傷機構に関する基礎研究を行った。TiO_2による細胞死のメカニズムには、光触媒反応で直接生成する活性種の他、細胞膜構成分子等の酸化で生成する二次的活性種の関与が示唆された。タンパク質の構成分子であるアミノ酸をTiO_2で光触媒酸化したところ、ほとんどのアミノ酸の酸化物から二次的に過酸化水素(H_2O_2)が生成することを明らかにした。二次的H_2O_2の生成は、光触媒反応で生じたアミノ酸酸化物の自動酸化の過程で酸素の還元を介して起こると考えられる。アミノ酸の酸化には、ヒドロキシルラジカルの関与が示唆されたが、TiO_2光触媒反応で直接生成する活性種では一重項酸素(^1O_2)も報告されている。しかし、^1O_2の生成機構と反応性には不明な点も多い。本研究では、その生成機構が酸素の還元で生成するスーパーオキシドの再酸化であることを明らかにした。次にその^1O_2は、細胞膜の環境で生成が促進すること、表面に吸着したタンパク質を酸化損傷できることを明らかにした。この他、可視光線を利用できる広い意味での光触媒といえるポルフィリン類の光増感反応による生体分子損傷機構で、^1O_2生成が特に重要であることを明らかにした。また、生体分子との相互作用を積極的に光増感物質の活性制御に活用する研究を行った。DNAのモデルにアニオン性ポリマーを用いた実験から、DNAの負電荷との静電相互作用で光増感物質の^1O_2生成活性の制御が可能であることを明らかにした。本研究では、TiO_2光触媒反応において、これまでにあまり注目されてこなかった二次的活性種や^1O_2が関る反応機構を明らかにした。また、生体内の特殊な環境を利用することにより、特定の生体分子のみを選択的なターゲットとする光触媒・光増感物質開発の可能性を示した。
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