1.加熱処理による光電流の増大 有機積層型太陽電池より得られる光起電力は一般に0.5V程度であるが、我々は透明な正孔輸送材料であるある種のアミン化合物(TPD)とフラーレン(C_<60>)を積層することにより、0.8V程度の高い光起電力を得られることを見出した。この材料の組み合わせにおいては吸光度が小さく、短絡光電流が小さいことが問題であったが、有機層を加熱処理することにより、光電流を大幅に増大させることに成功した。処理条件を最適化した結果、短絡光電流は約1mA/cm^2から3mA/cm^2に増大し、変換効率は0.36%から1.0%に向上した。有機層の微細構造について検討した結果、加熱処理によって高さ数十〜数百nmの筋状の模様が生じており、これはTPDの凝集によるものであることが明らかになった。加熱処理によって有機/有機界面の接合構造が改善し、光電流が増大したものと考えられる。 2.有機/金属界面の構造制御 有機/金属界面においては、電極を蒸着する際に金属微粒子が有機層に侵入し、それに伴って分子状態の変化などが起こると予想される。特に、有機薄膜太陽電池に用いられる材料は結晶性膜を形成するものが多く、金属微粒子の侵入が起こりやすい。そこで、有機膜の静電容量を種々の金属電極を組み合わせて測定した結果、用いる金属によって電気容量が異なることが明らかになった。これは有機層への侵入の度合が金属によって異なり、AgやMgは侵入しやすい反面、InやAlは侵入しにくいことを示している。バッファー層としてアモルファス薄膜を形成するBathocproineを挿入することにより、金属微粒子の侵入が抑制され、光電流やF.F(Fill Factor)が向上することも明らかになった。これは、金属微粒子の侵入によって起こっていた励起子失活などの現象が抑制されたためと考えられる。
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