色素増感太陽電池の研究で固体化は最も重要なテーマのひとつである。これまで化学反応架橋型のゲル電解質前駆体およびその固体化を既に報告してきた。化学反応型ゲル電解質前駆体は室温でも徐々に反応が起こり粘度が上昇するため、ゲル電解質前駆体がチタニアナノ細孔へ十分に充填しないことがあった。特に大型太陽電池では充填に時間がかかるため未充填はさらに顕著になり大きな問題であった。新しく、潜在性化学反応型ゲル電解質前駆体を見出した。潜在性ゲル電解質前駆体とは室温では反応性がなく前駆体の粘度上昇がまったく見られないが80℃に加熱(トリガー)することによって瞬間的に固体化する電解液である。イオン液体を電解質とし、化学反応型ゲル化剤としてナノ粒子(架橋点)と長鎖ジカルボン酸(架橋剤)を加えた。ゲル電解液前駆体は低粘度で潜在性があり、室温では反応しない。80℃に加熱すると長鎖カルボン酸が相転移を起こし、急激にナノ粒子表面と反応することにより架橋、ゲル化する。ゲル電解質中では長鎖アルキル基がイオン液体からミクロ相分離を起こし、ヨウ素レドックスの拡散を阻害しない。ナノ粒子は架橋点として働き長鎖アルキル基の相分離を促進する役目を果たす。有機分子を架橋点として用いても相分離が顕著ではなく、ヨウ素レドックスの拡散が阻害される。大型基板にも十分浸透し、加熱により固体化することを確認した。一方、Grotthuss型のヨウ素電荷移動が起こる固体に近い電解質を見出した。ナノ粒子表面を長鎖アルキル基で分子修飾し、この表面をヨウ素レドックスのパスとして使用すると、堅い粘土状のゲル電解質であるにもかかわらず液体と同じ性能の太陽電池が得られた。
|