研究概要 |
近年、可視光応答型光触媒材料が非常に注目され、研究、開発がさかんに行われてきている。その多くは、酸化チタンやチタン酸ストロンチウムなどにアニオンやカチオンを微量添加し、可視光化を図っている。しかし、その手法には限界があり、活性の向上は十分でない。そこで我々は酸化チタンの枠組みにとらわれない新規複合酸化物光触媒材料の開発に取り組んだ。有機物等を分解するのに必要な酸化還元力を保ちながら、バンド構造制御を行うことによって禁制帯を狭くし、広い範囲の可視光に吸収を持たせるように試みた。 これまでに安定性の観点から、様々な金属とNbの複合酸化物を固相反応法により合成し、Bi-Nb系(CsBi_2Nb_5O_<16>,CsBiNb_2O_7)とPb-Nb系(Pb(II)_<1.83>Mg_<0.29>Nb_<1.71>O_<6.39>,Pb_3MgNb_2O_9)複合酸化物を開発した。これらの化合物が可視光吸収特性を示すのはBi6sやPb6s軌道がO2p軌道とハイプリットすることによって、価電子帯のトップの位置が押し上げられたためであると考えられる。今年度はこれまでの成果を踏まえ、Bi系化合物をさらに探索したところ、新規可視光応答型光触媒材料NaBiO_3を開発した。この材料は2.6eVのバンドギャップを有し、可視光照射下において各種色素やIPAなどのガス状有機物を高効率で酸化分解することができる。特にメチレンブルー色素の分解においては、僅か8分間の可視光照射(λ>420nm)によって、MBの濃度を16mg/Lから0に減少し、その速度は窒素ドープ二酸化チタンやBiVO_4を用いた場合よりも格段に高い。バンド構造計算の結果、NaBiO_3においては伝導体のボトムは主にNa3sとO2pの混成軌道から構成され、また、価電子帯のトップは主にO2p軌道が占めていることが判明した。これらの軌道、特にsp混成軌道は局在性が比較的に弱いため、光励起したキャリアの移動に有利に働き、結果的にこの材料の高活性を形成した一因と考えられる。これらの結果は今後の高効率光触媒材料の開発に重要な指針を示した。
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