本年度は、まず、様々な反応環境や形態の光触媒試料における過渡吸収計測を実現するために、新しい過渡吸収分光装置を開発した。定常発振をするレーザーを吸収測定用の光源として用いる光学系を構築し、信号検出系の最適化、測定アルゴリズムの最適化を行った。励起光源にはパルス幅10ナノ秒のパルスレーザーを用いた。観測光である定常発振レーザーを交換することで観測波長を変えることができる。既有の赤色、緑色のレーザーに加え、本年度青色レーザーを購入したことにより、様々な試料へ対応することができるようになった。過渡吸収分光では、励起光パルスの照射によって生じる励起状態や電荷キャリヤーなどの活性種による光吸収変化を検出する。非常に微小な変化を検出するために観測光を二つに分割し、一つを試料に入射して計測に用い、もう一つを参照信号として計測した。これらを差動増幅器へ導入し、観測光のゆらぎを差し引きすることに成功し、微少な変化を検出することが可能になった。 開発した装置を用いて、主に酸化チタンのナノ微粒子膜における、光触媒反応の初期過程の解明を指向した研究を開始した。酸化チタンを光励起したときに生じる電子・正孔の反応性を評価するため、それぞれの活性種と反応する基質分子を添加した系において計測を行い、反応速度や反応収率について検討した。まず、酸化チタンの電子・正孔と水、アセトニトリル、トルエンの反応は非常に効率が低いことを見出した。また、正孔と非常に効率よく反応すると言われているアルコール類について検討したところ、分子量の小さなアルコール類では非常に高い収率で反応が起こるが、炭素数が7以上の大きなアルコールでは反応収率が著しく低下することを見いだした。この現象はアルコール分子の酸化チタン表面への吸着効率の観点から説明することができた。これらの研究結果について現在論文を投稿中である。
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