昨年度開発した装置を用いて、酸化チタンのナノ微粒手膜における光触媒反応と色素増感太陽電池の初期過程の解明を指向した研究をすすめた。具体的には下記の各課題について検討した。光触媒系については、(1)メタノールと酸化チタン中の正孔の反応におけるメタノール濃度効果、(2)過渡吸収スペクトルにおける励起密度依存性。また、色素増感太陽電池の初期過程については、(3)電子注入効率の励起波長依存性、(4)高性能増感色素であるN3色素の会合状態について検討した。(1)については、メタノールをアセトニトリルで希釈した際の反応速度・収率の変化を計測した。希薄溶液では正孔との反応速度が1マイクロ秒程度となり、収率は0.3程度となった。これは高濃度での300ピコ秒の反応速度、100%の収率の反応と大きく異なっており、顕著な濃度効果が観測されたといえる。この理由としてメタノールの表面吸着現象との関係から議論を進めている。(2)については、電子と正孔によって生じる過渡吸収スペクトルが高密度励起下で大きく変化することを見いだした。これは電子のトラップ状態の変化として説明することができることがわかった。これらの結果については現在論文を執筆中である。(3)については、高感度過渡吸収分光装置を用いて酸化チタン表面に吸着した増感色素からの電子注入効率を励起波長を変えながら測定した。異なる電子励起状態を励起した場合でも電子注入効率は80%を越える高い値を示すことがわかった。励起状態の緩和速膜と電子注入速度の関係を考察した。また、電子注入が起こらないとされるジルコニアについても検討し、励起状態の寿命を評価した。(4)については、色素増感太陽電池として最も有望とされている増感色素の1つであるN3色素について近赤外過渡吸収スペクトルの解析から会合状態についての情報が得られることを明らかにし、実際にジルコニア上では会合体が形成されていることを明らかにした。これらの結果の一部は論文として公表した。また、新しい過渡吸収分光の可能性を探るため、マイクロ波領域での過渡吸収の可能性について検討し、予備的な測定を行った。マイクロ波領域の過渡吸収測定では、電子や正孔の生成量とそれらの移動度の積に比例する信号強度が得られるため、トラッピング過程等、新しい情報が得られることがわかってきた。
|