研究概要 |
火山ガスはマグマに溶存していた揮発性成分から構成され,火山噴火がマグマから揮発性成分が抜けることを駆動力としていることを考えれば,その観測は火山噴火メカニズムの解明に必須であると言える.しかしながら,火山ガスを火口で直接採取することは危険を伴う.その危険を回避する手段として,大気に拡散した火山ガスによる自然光の紫外域,赤外域での吸収を利用する遠隔観測が実用化されている.しかし自然光の光吸収による観測は,SO_2,HCl, CO_2など,限られた気体のみに可能である.火山ガスの重要な成分であるH_2,H_2Sに光吸収法は適応できない. 本研究で試みた遠隔観測の手法では,火山ガスにレーザービーム光を照射し,後方散乱するラマン光を観測することにより化学種の特定と濃度の推定を行う.この手法は,ごく一部の気体を除き,火山ガスを構成する主要な気体を全て感知することが原理的に可能である.実験は,532nm cw 5Wレーザー発振器を購入,光検出器としての回折格子分光器は長時間露光が可能なCCDカメラを用いて自作した.実験では,室内において,レーザービームを12m遠方の空気に対して照射し,後方散乱する光を25cm反射望遠鏡で集光し,回折格子分光器でそのスペクトルを観測した.露光時間は5分間とした.その結果,大気を構成するN_2,O_2,さらには実験室内の気温,湿度から1.4%含まれると推定された水蒸気のラマン散乱光の検出に成功した.H_2Oのラマン光ピークのS/N比は20に達している.これらの結果から,定量可能なラマン光ピークのS/Nを10とし,露光時間を15分まで延長すれば,約100mの距離で,濃度が1%の気体濃度を定量可能であると推定された.この結果は本手法の実用が可能であることを強く支持している.次年度においては,実際に野外において100m程度の距離にある自然噴気に対して本手法を適応し火山ガスの化学組成観測を実施する予定である.
|