本特定領域研究では極微領域での化学種分析が1つのテーマとなっており、とりわけ第2班は固液界面で成長する分子の微小な構造体について化学分析を行うことが求められている。本研究では、空間極限での振動分光である走査トンネル顕微鏡(STM)を用いた非弾性トンネル分光(IETS)に関連した手法を固液界面の研究に応用する。そのために、STM-IETSのさらなる高精度化を図るとともに、固液界面での分子集合体の状態変化を固定化しスナップショットを観察するために必要な機器開発を行うことを目的とした。 本年度の成果は以下の通りである。まず、固液界面での分子集合体の状態変化を固定化しスナップショットを観察するために必要な試料搬送システムと自作STMユニットを開発した。これらを既存の真空槽に組み込み、極低温(〜10K)で動作する装置を製作した。また、コントロールユニットに、STM-IETS測定の高精度化を目的として自動分子追跡の機能を組み込んだ。さらに、分子集合体である自己組織化膜(SAM)は、単一分子とは異なる物性を示す。STMを用い、最も単純なアミノ酸であるGlycineをCu(100)表面に吸着させた際に現れる自己組織化膜の電子構造を詳しく調べたところ、表面電子状態密度の長距離にわたる変調が観察された。自己組織化膜はp(2x4)構造をもった領域が最も安定で、これは分子の持つ極性とキラル構造とから生じると考えられる。発現した電子状態密度の変調は異方性をもち、電子派の干渉による定在波としてdI/dV像で観察された。
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