研究概要 |
タンパク質の1分子観察技術を応用し,タンパク質結晶-溶液界面における個々のタンパク質分子の表面拡散・吸着過程をその場観察し,下記の成果を得た. 1.分子位置決め精度の向上:除振台を新規購入するとともに,剛性を有し試料位置を精密に制御できる顕微鏡ステージを新規作成し,位置決め精度50nmを達成した. 2.表面拡散過程のその場観察:モデルタンパク質・リゾチームの正方晶系結晶{110}面-溶液界面において,蛍光ラペル化リゾチーム分子の拡散挙動を追跡した. まず,蛍光分子の焦点深度内での滞在時間と移動距離より,本手法で観察される蛍光分子はバルク溶液中のものではなく,結晶表面から水素結合の到達距離内に存在し,結晶表面と強く相互作用して極めて遅い拡散運動をしている分子であることを明らかにした.即ち,固体表面上の厚さ数nm程度の極めて薄い溶液層内での遅く2次元的な拡散運動こそが,固液界面における表面拡散の猫像であることを見出した. 次に,293分子について結晶のc軸に平行・垂直方向の拡散係数を決定した:それぞれ8.6x10^(-15),5.1x10^(-15)[m^2/s].本結果は,固液界面での拡散が,(1)バルク溶液中での拡散(1x10^(-10)[m^2/s])に比べて4-5桁遅いこと,および(2) 異方性を有することを意味する.拡散の異方性は,リゾチーム分子の正味電荷および結晶表面上での電荷分布の異方性より説明できた. 3.ステップ前進過程の活性化エネルギーの測定:表面拡散よりも観察が容易なステップ前進過程の活性化エネルギーの測定を試みた.しかし,タンパク質結晶において実験可能な5-30℃程度の温度範囲では,優位差を検出できなかったため,計画を断念した. 4.吸着過程のその場観察:蛍光化リゾチームが結晶表面上のテラスではなくステップに優先的に吸着することを見出した.
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